感謝をこめて
秋吉 博之
平成25年(2013年)4月、新曽木発電所(最大出力490kW)が運転を開始しました。
本発電所は、「日本化学工業の父」野口遵氏が、明治39年(1906年)、32才で「曽木電気株式会社」を設立し、明治42年(1909年)に完成させ、現在は産業遺産となっている旧曽木発電所遺構の取水設備の一部を改築・再利用したメモリアルな発電所です。野口氏が、事業家としての第一歩を踏み出したのが、この曽木電気(株)でした。当社が、この地に発電所を建設できた背景には、様々な縁があり、まさに、「天の時」、「地の利」、「人の和」のお陰であったと深く感謝しています。
建設のきっかけは、平成15年度(2003年度)当時の経済産業省・補助事業「ハイドロバレー計画」で、「曽木の滝地点の小水力発電計画」を日本工営が受託・実施したことに遡ります。この計画は実現に至らず、平成21年(2009年)6月、日本工営が、再度、独自調査を行いましたが、公園整備が進んでおり開発は難しいと判断されました。ところが、同年11月、旧曽木発電所建造100周年記念事業に出席した日本工営経営陣へ小水力発電開発の可能性が打診され、再検討へと動き出しました。平成22年(2010年)3月、当初計画を見直しし、曽木の滝の直下で発電した水を放流する現計画へと焼き直しし、伊佐市へ提案することになりました。
日本工営(株)は、曽木の滝、旧曽木発電所遺構を軸に観光振興を目指していた伊佐市と協議を重ね、この地における水力発電の歴史的な物語を軸に、子供たちを対象とした学習型観光振興を、官民連携により実現する発電事業計画として、まとめあげました。小水力発電では、当時は、地球温暖化対策、純国産エネルギー、地域資源の視点から導入補助事業が実施されていましたが、奇しくも平成23年(2011年)3月11日の東日本大震災の日に成立した「再生可能エネルギーの固定買取制度」により、国民の理解を得て、一層の導入拡大が進むことになったのです。
本発電所は、東洋のナイアガラ「曽木の滝」という観光名所にあり、集客面で抜群の地の利を有しています。さらに、発電事業の点では、一級河川・川内川の豊富な水量の僅か一部を利用するため、設備稼働(設備利用率)が非常に高い特徴を有しています。また、発電所は地下式として、河川流量が極端に少ない日中の時間帯には発電を停止する等、曽木の滝公園の「環境と資源有効活用の両立」を志向しています。
人の面では、鹿児島県、伊佐市、地元の観光協会、漁協、J-Power、JNCといった皆様に、多くのご支援・ご協力を戴きました。また、水利権取得では国土交通省、電気事業法許認可では経済産業省、系統連系では九州電力(株)の皆様方に、ご指導・ご支援を戴きました。工事関係の皆様のご努力も大変なものでした。このように、多くの方々のお陰によって、このプロジェクトが実現できたことに、心から感謝を申し上げます。
最後に、野口遵氏の東京大学後輩である日本工営(株)・創業者久保田豊は、戦前、朝鮮半島(北朝鮮)における野口氏の一大化学事業遂行のため、赴戦江(20万kW),虚川江(33万kW),鴨緑江水豊ダム(70万kW)等の大規模水力発電施設の建設・運営を行ない野口氏の盟友として活躍しました。野口氏と久保田氏の盟友関係から始まる日本工営創業の歴史に照らし、日本の化学工業発祥の地である曽木における発電所の復興は、他社にない歴史的意義・意味を有しています。
(株)工営エナジー新曽木発電所は、安定的な発電事業を運営すると同時に、先人達の歴史的偉業を、学習型観光振興、教育啓発活動を通じて後世へ伝え、官民連携のモデル事業となるように努力していく所存です。
以上